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江戸に行くと足が動かなくなる。「江戸患い」を救ったのは、そばだった

お盆休みもそろそろ終わり、Uターンラッシュのニュースが流れる頃になりました。実家のご馳走、親戚との宴席、冷たいビール。楽しかった数日間の代償として、なんとなく体が重い……という方も多いのではないでしょうか。

そんな今日は、江戸の町で実際に起きていた、ちょっと物騒な事件のお話から始めさせてください。

■ 江戸に行くと、なぜか足が動かなくなる。「江戸患い」の謎

江戸時代、地方から江戸に出てきた武士や大名たちの間で、奇妙な病が流行しました。

しばらく江戸で暮らしていると、足元がおぼつかなくなり、体がだるくなる。ひどい場合には歩けなくなり、心不全で命を落とすこともある。ところが不思議なことに、故郷へ帰るとケロリと治ってしまうのです。

「江戸には何か悪いものがあるらしい」

そう噂され、この病は「江戸患い(えどわずらい)」と呼ばれるようになりました。土地の空気が悪いのか、水が合わないのか。当時の人々には、原因がまるで分かりませんでした。

正体が判明したのは、ずっと後のことです。脚気(かっけ)、つまりビタミンB1の欠乏症でした。

犯人は、江戸の「白いご飯」です。当時、地方ではまだ玄米や雑穀が主流でした。ところが江戸では精米技術が発達し、真っ白に磨いたご飯を食べるのが粋とされていた。「おかずは少しでいい、白飯を山盛り食えるのが江戸っ子だ」という気風まであったといいます。

ですが、ビタミンB1はお米の胚芽の部分に多く含まれています。真っ白に磨くということは、その胚芽をきれいに削り落とすということ。憧れの都会の食事が、そのまま栄養失調への道だったわけです。故郷に帰れば元の雑穀まじりの食事に戻るので、症状も自然と消える。「江戸に行くと病気になる」という噂は、ある意味で正しかったのです。

■ 今日のちょっと役立つ話 ― 江戸っ子は、答えを知らないまま正解を選んでいた

さて、ここからが面白いところです。

ビタミンという概念すら存在しなかった時代に、江戸の庶民は経験的に、ある事実に気づいていました。

「どうも、蕎麦を食っている連中は、あまり江戸患いにならないらしい」

そばの実には、ビタミンB1が豊富に含まれています。当時の江戸には蕎麦の屋台が驚くほど密集していて、庶民にとってそばは日常のファストフードでした。理屈は分からないまま、彼らは毎日、白米で失った栄養をそばで補っていたことになります。

なぜ悪いのかも、なぜ効くのかも分からない。それでも「なんとなく体調がいい」という感覚だけを頼りに、正しい選択にたどり着いていた。医学が解き明かすより何百年も前に、食習慣のほうが先に答えを出していたわけです。

ちなみに、ビタミンB1は水に溶けやすい性質を持っています。そばを茹でると、その一部は茹で汁のほうへ移ってしまう。だからこそ、そば湯を飲む文化が理にかなっているのだと言われています。江戸の人たちは、そこまで計算していたわけではないでしょう。ただ「もったいない」と思っただけかもしれません。それでも結果として、いちばん賢い食べ方をしていたことになります。

■ 「なんとなく体にいい」を、理屈の側から支える

そば半が予防医療に取り組む医師と手を組んでいるのは、この「なんとなく」を、現代の知見で裏づけたいと考えているからです。

そば粉と水だけで打つ十割そば。使うのは、北海道の契約農家が無農薬・有機質栽培で育てたそばの実を、毎日店内で自家製粉したものです。つなぎの小麦を使わないぶん、そばの実そのものの成分が濃く出ます。打ち水には焼津の海洋深層水を脱塩した「駿河純水」を使い、そばをしなやかに、のど越しよく仕上げています。

江戸の人たちは、理由を知らないまま正解を選びました。私たちは、その正解に理由をつけていきたい。そう思いながら、今日もそばを打っています。

お盆疲れの体には、するりと入る一杯を。長い休みの締めくくりに、ぜひどうぞ。


そば半 登呂本店
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